2008年11月21日金曜日

日本の原爆研究

先日、東京理科大の科学史の授業に招いていただき、学生にドキュメンタリーを見てもらいました。
科学史の授業ですが受講生の多くは、20歳前後の若い科学者の卵です!
率直な質問やコメントをいただき、ちゃんと答えられるように精進したいと思いました。
中でも、日本で行われていた原爆研究について質問が集中したように思います。
なぜかと思えば、日本で原爆研究が行われていたということを見聞きしたことのある学生は、約100人中1人だったのでした。。

ということで、ここでは詳しいことは書きませんが、先行研究をいくつか紹介したいと思います。


日本の原爆開発史については、新聞の連載や週刊誌などに関係者の回想録といった形で少しずつ伝えられてきました。ただし「原爆」といっても、完成にはほど遠く、初歩的な理論研究しかできていなかったというのが先行研究の一致した見解です。それを念頭においた上で。

まずは50年代に、関係者による回想録として紹介され始めました。陸軍技術少佐として原爆研究に携わっていた山本洋一は1953年ごろから週刊誌などに記事を書き、のちに『日本製原爆の真相』としてまとめています。

1967年から1975年にかけて『読売新聞』が連載した「昭和史の天皇」は、新聞記者が戦時中の出来事を関係者のインタビューを通して掘り起こしていったものですが、第4巻は日本の原爆開発にあてられています。これによって、はじめて日本の原爆研究の全体像が明らかになったといえます。

また、戦時史研究者の保阪正康は70年代に原爆開発についての調査を行い、雑誌に連載した内容を『戦時秘話―原子爆弾完成を急げ』にまとめています。

90年代後半から科学史研究者の山崎正勝らが、残されている一次資料をあたり、戦時中の原爆研究の内実を明らかにしてきました。これは学会誌『科学史研究』や『技術文化論集(東工大技術構造分析講座紀要)』などで発表されています。
また、2006年に出版された『仁科芳雄往復書簡集Ⅲ』も当時の研究状況を知るのに格好の資料といえます。

近年ではウォルター・E・グルンデン(戦時期の兵器開発)、モーリス・ロウ(戦時体制と物理学)らも調査を行っています。


これらの研究は、入手しにくいものが多いかもしれません。
(絶版になっているものは国会図書館などにいかないと読めません。多分)
また、記述の誤りが指摘されているものもあります。
ネットで見れるものとしては、

テレビ朝日
http://www.tv-asahi.co.jp/scoop/update/toppage/060806_010.html

こちらは京大のF号研究に関する日経新聞の連載です

「秘史・日本の原爆研究」
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news001375.html


Mark Walker は"Nazi Science: Myth, Truth, and the German Atomic Bomb"でナチスの原爆をめぐる神話と実際を書いています。彼は、ドイツの物理学者が原爆の理論をよく知らなかったという従来説を、資料によって覆した(つまり、ドイツの物理学者は原爆の理論をちゃんと理解していた)りしたのですが、日本の原爆研究をめぐる歴史についても、新たな説がでてくる可能性があります。

ここにあげている情報もすべてが正しいとは限らないので、
何か気づくことがあれば、ご指摘ください。
ということで、いったん終わります。

2 件のコメント:

Tatsuo Tabata さんのコメント...

 『週刊ポスト』1985年8月9日号に「幻の『日の丸』原爆を追う」という記事が掲載されていました。著者はジャーナリスト・佐野真一。石田政弘・京大原子炉実験所教授(当時)らから取材したものです。

gg さんのコメント...

Tedさま

貴重な情報をありがとうございます。早速チェックさせていただきます。このページももう少し、内容を詳しく更新できたらと思います。とりいそぎお礼まで。